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  • 2017年2月17日 公開
  • [donciccio]
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「誤審」と「誤算」

プロ野球日本シリーズで起きたある「事件」を題材にして勝負事のあやについて説明します。

「誤審」と「誤算」

第7戦にもつれ込んだ名将対決

スポーツの試合には必ず審判がいて判定を下します。審判のジャッジは絶対でありビデオ判定というケースもあるにはありますが、基本的に一度下されたジャッジが覆ることはありません。しかし審判も人間である以上時としてミスを犯します。今回取り上げるのはプロ野球日本シリーズで起きたある「事件」 についてです。

1978年の日本シリーズはヤクルトスワローズ(セ・リーグ)と阪急ブレーブス(パ・リーグ)の対戦になりました。ヤクルトスワローズを率いるのは後に西武ライオンズを常勝軍団に育て上げ名将とうたわれた広岡達朗(ひろおかたつろう)監督(当時)、一方阪急ブレーブスを率いるのは前年まで3年連続日本一に輝き阪急の黄金時代を築いていた上田利治(うえだとしはる)監督(当時)です。

3勝3敗で迎えた後楽園球場での第7戦、ヤクルトの先発は松岡弘(まつおかひろむ)投手(当時)対する阪急は足立光宏(あだちみつひろ)投手(当時)の投げ合いで始まりました。

5回裏にそれまで日本シリーズ25イニング連続無失点だった足立投手からヤクルトが1点を奪った直後の6回裏にその「事件」は起こります。

1時間19分に及んだ猛抗議

ヤクルトの4番・大杉勝男(おおすぎかつお)選手(当時)が足立投手からレフトポールをまく(ように見えた)ホームランを放ちます。この判定に激高した阪急・上田監督がベンチを飛び出し猛然と抗議しました。「明らかにファールじゃないか!」。レフトの富沢線審に詰め寄ります。

上田監督が怒るのも無理はありませんでした。翌日の毎日新聞にはレフトスタンドに座っていた男性の「レフトポールの右側30センチくらい(スタンド側から見て)を通過したボールが息子の足に当たった」という証言が掲載されていますし、また山本文球審が「自分にはファールに見えた」と後日語っていることが後の検証で明らかになっておりこの時の打球は限りなくファールに近いものだったからです。

現在のように「抗議5分ルール」などない時代でした。上田監督は守備についていた選手を全員引き揚げさせ抗議を続けます。「判定が覆らないのは分かっていたがこのままでは選手たちの志気にかかわる」というのが上田監督の考えでした。

そしていつしか抗議の内容は「ホームランかファールか」ではなく「レフト線審をかえろ!」というものにかわってゆきます。もちろんそんな主張が通るはずもなくコミッショナーが頭を下げても納得しない上田監督が最終的には球団代表の説得に応じる形での試合再開となったのです。

この時抗議時間は1時間19分に達していました。この1時間19分の間に両軍の選手には何が起こっていたのでしょうか。

上田監督にとっての最大の「誤算」とは?

阪急上田利治監督 1時間19分の抗議を振り返る

阪急の足立投手は以前から半月板を痛めておりヒザに水がたまってもう投げられる状態ではなくなっていました。一方ヤクルトの松岡投手。彼は当時終盤になると球威が落ちる傾向にあり阪急の選手たちもチャンスは必ずあると感じていたのですが、1時間19分の「休息」を得てマウンドに戻ってきた松岡投手は別人のようになっていた(阪急選手談)そうです。

その後試合はマニエル選手(当時)や大杉選手の「文句なし」の2打席連続ホームランでヤクルトが完勝し初の日本一に輝きました。

こういった経緯をあらためて考えてみると上田監督の最大の「誤算」はファールをホームランと「誤審」されたことではなく松岡投手に回復する時間を与えてしまったことではないか、と思えてならないのです。
ペナントレースとは違う短期決戦ではこのような「判断ミス」が勝負の行方を左右してしまうことがあるのでしょう。まことに勝負のあやとは不思議なものだと思い知らされた日本シリーズでした。

優勝チームの監督が辞任

余談ですがこの試合後上田監督は4年連続でパ・リーグを制したにも関わらず、騒動の責任を取って辞任するという異例の事態となりました。

そしてレフト線審を務めた富沢氏は二度と日本シリーズの舞台でジャッジすることはなかったのです。
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